弥恵の「からだのかみさま」

東京→京都に移住したライター・弥恵(やえ)の日記です

和太鼓が響く身体

母は私を身ごもるまで、毎日同じ山を登るような人だった。だから、私が母になんども聞かされた父の愚痴は「私が身ごもってる間、1人でせっせと山に登ってた。私だって登りたかったのに」というちょっと笑えるものだった。それは西海岸からやってきた今のアウトドア登山みたいな、あちこちの山をめぐるようなもんじゃない、「あ、」と思ったその時、ジーパン姿で登るような、もっと純粋な、衝動からくる山登り。ちなみにその山は弥山といって、標高1800くらいで、私の名前の由来になった。

 

私が生まれたあと、母は村の和太鼓チームに入った。そこからは和太鼓に夢中になった。確かに幼い記憶の中で、母はハチマキをしめて神社の神楽殿で和太鼓を叩いてた。子ども心にも長身の母は美しくて、だけど人一倍挙動が大きいからよくも悪くも目立っていた。バチを振り下ろすたび揺れるポニーテール姿に、憧れたりもした。

 

離婚して新潟に戻った後も、ずっと太鼓を続けていたし、よく鼓童のライブにも連れていってもらった。地元に鼓童がきて、市民ホールでの演奏を聞きにいった。「最後はみなさん踊りましょう!」とステージで演奏が始まった時、着席したままの観客はただ手拍子をするだけだったのに、母はたった1人で立ち上がって踊り出した。横に座っていた私は口をぽかんとあけ、突き動かされるようにリズムを刻む母を見上げていた。

 

小学生のとき、鼓童の本拠地である佐渡島へフェリーで渡って、アースセレブレーションに参加して、大人たちにもみくちゃにされたっけ。25歳になって、やっぱり1人で参加したんだ。原っぱで体育座りして、日が暮れて太鼓が鳴り出した。あの時も同じことを考えてた。太鼓の音は、外で鳴っているはずなのに、だんだんと身体の中から聴こえてくる。

 

週末、日帰りで伊勢に行ってきた。目当ては毎年秋に行われる神恩感謝祭の太鼓祭り。9月におかげ横丁に行った時、ポスターをみて開催を知ったのだけど、錚々たる出演チームに思わず叫んでしまった。だもんで、夫に「私が運転するし」といってついてきてもらった。

 

3つある会場のうち、最も狭いところで見た。だってその方が、間近で体験できるから。和太鼓は、緊張と解放の音楽だと思う。太鼓が叩かれた瞬間から、身体の内側、背骨のあたりが震え出して、なんか涙が出てくるし、笑えてもくるし、勝手に全身が動き出すし、自分の真ん中に別の生き物がいるようだった。大人になるにつれて制御されていったものが、確かに登山をしている過程で外れていく実感があったのだけど、それが今度は太鼓の音とリズムによってどんどん溢れ、暴れていくような感じ。

 

私たちは午後から観始めたから、ちゃんと観られたのは5チームくらい。

 

そのうち、和太鼓 志多ら の、太鼓を叩きながら舞う女性の、笑った顔が本当によかったなあ。舞台に上がっているから自動的に笑っているのではなくて、音を生む身体によって笑えてきてしょうがないのって感じで。内側から振動する熱が頰まで緩めるんです、って感じで。もしそこに笑顔への意識があるとしたら、笑えてくるところまで自分を持ち上げるプロ意識なのかなとか考えた。このところ「笑顔ってなんだ」と考えていた自分にとって、それは強烈な答えだった。

 

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あまりに観客席から近いので、息遣いも、時折こぼれる「うっ」とした声も全部演奏に混じって聴こえる。おまけに土俵型のステージだから、四方を観客が囲むせいで、一体感がある。こんな形で太鼓を見られるなんて、なんて贅沢なんだ。ありがとうおかげ横丁の人、伊勢、太鼓の人たち、天照さん。太鼓のチームは、演奏前に必ず内宮に向けて柏手を打つのね。その緊張感から始まるのが、またいいんだ。

 

太鼓のチームや演目にも色々とカラーがあるみたいで、観客参加型とかエンタメ性が強かったりとか、ちょっとお芝居が入ったり、多種多様。中でも夫がため息を漏らすほど絶賛してたのが熊野鬼城太鼓 。彼らは黙々と職人みたいに太鼓を叩いて、にこりともしないで、なんの飾りっ気もなくて。その分モノクロ映画の役者みたいな表情をしてた。

 

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ああ、こういう顔をする人たちが熊野にはちゃんといまもいて。媚びと防御の笑顔なんてそこにはなくて。おまけに私は熊野ファンなので「きゃああ熊野灘からますらおが飛び出してきたあああ!!天照の懐でスサノオを宿した男たちが祝福をおおお!?」と勝手な文脈を加えてさらに感動してしまって、観客席にお辞儀をした時に「かっこいいー!!」と叫んでしまった。だってもう、この人たちの持ってるかっこよさを、ちゃんと本人たちに伝えないといけないんだよ!!それはかっこいいんだ!!どれだけ貴重だと!!?って思ったんだよね。その時のちょっと困惑したような顔がまた素敵だったなあー。

 

 

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ラストは鼓童だった。世界規模って格が違うんだなあ、というのをまざまざと見せつけられました。新潟県民の誇りは米と酒だけじゃない、鼓童もだっていわんばいけねと思ったがぁよ。

 

 

という一部始終を母にラインしたら、

 

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と案の定オススメされました。そういや妹も、沖縄のエイサーにハマって、太鼓をひたすら叩いて踊ってるらしい。ああ、こういうのを、血が騒ぐっていうのね。